「うちの入居者は大丈夫」と思っていませんか?
家賃もちゃんと払ってくれているし、特に問題はない……そう思った矢先に起こるのが、入居者トラブルです。
騒音やゴミ出しのルール違反、共用部の私物放置、さらには家賃の滞納や無断のペット飼育など、一見すると小さな問題も、対応を誤れば近隣住民との関係悪化や物件価値の低下につながります。
こうしたトラブルの多くは、「起きてから慌てる」のではなく、入居前の対策や契約時の一工夫で未然に防げるケースが少なくありません。
本記事では、実際にあった入居者トラブルの5つの事例とともに、大家さんが事前に講じられる具体的な対応策を、実務経験をもとにわかりやすくご紹介します。
目次
【1】騒音クレーム|生活スタイルの違いが原因に
A.夜の洗濯機
忙しい現代人にとって、洗濯にかかる30~45分は朝の貴重な時間を圧迫してしまいがちです。だからと言って深夜に洗濯機を回すのは、集合住宅という特性上、控えなければなりません。
洗濯機の動作音だけでなく、排水管を流れる音さえ聞こえてくることもあります。 裁判にまで発展したケースもあるため、決して他人事とは言えません。

大家としては何ができるでしょうか。
①防振ゴムの配布
既に入居中の方に設置をお願いするのは、洗濯機の下への設置作業負担もあることから難しいとは思いますが、新規で入居する方には無償でお配りするのも手ですね。設置により振動が3分の1に軽減するようです。
②契約書に使用細則を添付
契約時に添付する共同住宅使用細則に、洗濯機の使用は6時~21時まで、などと記載する。
これもお願いという形になり強制力はありませんが、共同住宅での暮らしが初めての方にとっては、文書として残すことで一定の抑止にはなりそうです。 と言いましても、使用細則を読む人ばかりではありませんから、仲介してくれる不動産会社さんにお客様に説明を依頼しておくことです。
③設備・構造による配慮
リフォームや建築時に、遮音性のある床材、洗濯機パンの改良、壁厚の確保など、一定の配慮を施しておく。
既に存在している共同住宅に対しては難しいですが、建築時に始めから防音・防振仕様にしておくことで軽減できます。
建築済みの建物については、退去後のリフォーム時に床材を工夫することで軽減できます。
B.扉の開閉
共同住宅の『開き戸』や『引き戸』には下の写真の様に衝撃を吸収する器具が設置されていることは非常に稀です。
そのため、戸の開閉時には物音がするのが必然となってしまいます。
風で勢いよく閉まって音が出ることもあれば、住人によるものもあります。

大家としては何ができるでしょうか。
戸当たりゴムや緩衝材を貼り付ける。
空室には設置可能ですが、入居中の方の中にも協力してくれる人がいたならお願いすべきです。 経験上、これだけでかなりの物音の軽減効果があります。
一つ問題があり、緩衝材の厚みによっては開閉戸がきちんと閉まらなかったり、引き戸を閉めたときにすき間ができてしまうことです。 最小限の厚みのクッション材で最大限の効果を得られるよう調整したいところです。
C.足音
これは生活の拠点である以上、足音がするのは仕方のないことです。問題は時間帯と、許容範囲か否かによります。
子供たちが走り回ったり、大人でも自身の歩き方による足音が大きいことに無自覚な方もいます。
逆に、上階の物音に腹を立てて、棒のようなもので天井を叩くなんて人もいたので驚きです。

大家としては何ができるでしょうか。
入居者に対して注意喚起と協力のお願いをする以外、有効な方法は少ないのが現状です。
ただ、クレームが来た場合は放置せず、注意喚起のお手紙を各戸に配布するなど、何らかの対処をしておかないと、『大家さんは何もしてくれない』という不満から退去してしまう入居者もいるので、注意が必要です。
この他、硬質ウレタンを使用したスリッパが販売されているので、これを提供するのも一つの案です。
【2】ゴミ出しマナー違反|ルールは説明しないと守られない
私の住む地域では朝8時30分までにゴミ出しすることと決められています。全国的には7時~9時の間の様です。集合住宅では24時間可能なところもありますね。
仕事の都合で、前日夜に出す方も多いでしょう。でもこれは仕方のないことと個人的には考えていて、夜勤などで深夜2時に帰宅して起床が朝9時だとしたら、ゴミ収集時間を過ぎていることでしょう。
最も困るのが、収集が来た後に出す人。夏場に生ごみの放置は悪臭の原因になり、アパートだけでなく周辺住民にも迷惑がかかります。

大家としては何ができるでしょうか。
①ゴミ出しルールと時間を掲示
地域によりゴミ出しの時間帯が異なる事は前出の通りですが、他の都道府県から引っ越されてきた方へは特に説明とゴミカレンダーによる明示が必要です。
②入居者に外国籍の方がいる場合は、多言語対応のゴミカレンダーの配布。
③ ごみ集積所に監視の目があると意識させる工夫(注意書き、カメラ設置、管理人の巡回頻度など)も効果的です。
【3】共用部の私物放置|ルールなき管理は放置を生む
集合住宅の共用スペースに私物が置かれている光景、見たことありませんか?傘立てや三輪車、宅配ボックス、ゴミ袋、さらには観葉植物まで…。本人にとっては「ちょっと置いてあるだけ」のつもりでも、他の住人にとっては通行の妨げや景観悪化、さらには火災時の避難障害にもなりかねません。
特に近年はネット通販や食材配達の普及により、個人用の宅配ボックスが共用部に置かれる事例が増えてきました。便利さの一方で、トラブルの火種にもなります。

大家としては何ができるでしょうか。
① 共用部に物を置かないルールを契約時に明記する
賃貸借契約書の「使用細則」や別紙として、「共用部分には私物を置かないこと」「置いた場合は撤去をお願いする場合があること」などの文言を入れておくと、後々のトラブル回避につながります。
② 掲示による周知徹底
「共用部に物を置かないでください」という貼り紙はよく見かけますが、具体的に「何を」「どこに」置いてはいけないのかが明示されていないと効果が薄いものです。写真付きで事例を掲示するのも有効です。
③ 最初が肝心、放置を見逃さないこと
一人が置いても注意されなければ、次第に他の入居者も真似をし始めます。「ここは置いてもいいんだ」と認識されると、すぐにエリア全体に広がってしまうのです。最初に見かけた段階でしっかり注意し、再発防止の姿勢を見せることが大切です。
一度「黙認」されると、ルールが形骸化してしまうことを意識しておきましょう。
【4】実体験から学ぶ誤認対応のリスク
私から大家さんへ
物音の苦情対処は通常、管理を依頼している不動産管理会社が行ってくれているかとは思いますが、管理をどちらにも依頼しておらずご自身で行っている方も多いことと思います。
その場合に気を付けていただきたいのは、「思い込みを排して対応することの重要性」です。
ここからは、私自身が実際に経験した物音トラブルの対応事例をご紹介します。
鉄筋コンクリート造の賃貸マンションで単身者専用の1DKがワンフロア4戸、5階建てで計20戸の一室から来た物音の苦情対応での出来事。
201号室から、上の階の物音がヒドイので注意してほしいと。大家さんに報告の上、301号室を訪問。そして周辺の部屋から苦情がある旨を伝えて、物音が少なくなるよう注意したのですが、全く自覚が無い様でした。それでも私は原因は301号室だと思い、強めに警告して部屋を後にしましたが、後日、301の親御さんとご本人が来店し逆に抗議を受けることになってしまったのです。
その日、201号室周辺の部屋である101号室、102号室、202号室、302号室、つまり201号室に接面するすべての部屋に聞き込みに行ったところ、原因となる部屋が303号室にあることが判明したのです。大音量で音楽を聴いている上に、普段から物音も大きいと周辺住人から聞き出せたわけです。一階層上の2部屋隣です。想定外でした。
301号室の方には謝罪して収まりましたが、結局退去してしまいました。結果として、301号室の方にも、大家さんにもご迷惑をおかけすることになってしまいました。
このような事がありましたので、先入観は持たないで物事に対処することが大事であることをお伝えしたいです。
【まとめ】トラブルは「予防」と「対応」がカギ
入居者トラブルは、起きてしまってからでは解決に時間も労力もかかるもの。契約時の工夫や、普段のちょっとした配慮で未然に防げるケースも多くあります。貸主として知っておきたい対応策を実践し、入居者も貸主も気持ちよく暮らせる環境を整えましょう。