あなたの振る舞いが審査対象に?知らなきゃ怖い賃貸の常識
目次
【1】訪問前の心構え
【2】不動産屋に持っていくべきもの
【3】店舗で失敗しないためのマナーと注意点
【1】訪問前の心構え
当然のことですが、不動産屋さんはあなたのお部屋探しのお手伝いをしてくれるところです。
勘違いしてはいけないのは、不動産屋さんがあなたの意のままに動いてくれるわけではないことです。
不動産屋さんは、貸し手と借り手、大家さんとあなたの間に立って、中立の立場で契約をまとめるのが仕事です。
一方的にあなたの言うことを聞くわけにもいきませんし、大家さんだけの主張を聞くわけにもいきません。
家賃交渉はほどほどに
「家賃を下げてほしい」というご要望は、よくある相談のひとつです。
たしかに、家賃が相場より高く、長期間空室が続いているような物件であれば、交渉の余地はあるかもしれません。
しかし、相場と比べて適正と判断される家賃の場合は、慎重な対応が求められます。
正直に申し上げますと、営業の立場からは、家賃交渉はあまりおすすめできません。たとえ交渉が成功して一時的に得をしたとしても、大家さんの心証を悪くしてしまうことがあるからです。
そしてこの「心証の悪化」が、契約後の対応に影響する可能性もあります。
たとえば、設備に不具合が生じたときや、駐車場の追加契約・退去日の延長依頼などを相談したい場面で、
本来スムーズに応じてもらえるはずのところが、大家さんの反応が慎重・消極的になることもあり得ます。
住まいというのは契約して終わりではなく、そこからの生活が始まりです。最初の印象で関係を損ねてしまうのは、長い目で見ればご自身の不利益にもなりかねません。
また、家賃が下がるということは、不動産会社に入る仲介手数料も減ることを意味します。
私たちが行う業務の手間や責任は変わりませんが、報酬は減ってしまいます。
このような状況が続くと、時間や労力に見合うお客様を優先せざるを得ない場合もあり、結果としてサポートの質やスピードに差が生じることもあります。
もちろん、すべてのお客様に誠意をもって対応するのが前提ですが、最初から信頼関係を築けるお客様ほど、不動産会社としても力を入れてサポートしたくなるというのが正直なところです。
【2】不動産屋に持っていくべきもの
①顔写真付きの公的身分証明書(運転免許証、マイナンバーカードなど)
入居審査のために必要です。現在では、保証人を立てる契約は大幅に減少し、多くの契約で保証会社の利用が必須となっています。
この保証会社の審査を受ける際に、身分証明書の提出が求められます。
また、大家さんは入居希望者と直接会う機会がほとんどないため、どのような人物かを確認する意味でも、顔写真付きの身分証は重要な書類です。

②勤務先を証明できる書類(健康保険証、社員証、在職証明書、内定通知書など)
家賃を継続的に支払うためには、安定した収入が必要です(多額の預貯金がある場合などは別ですが)。
そのため、現在働いていることを証明できる書類の提出が求められることがあります。
また、入居申込書には年収を記入する欄があり、場合によっては記載内容の裏付けとして収入証明書(源泉徴収票や給与明細など)を提出するよう求められることもあります。

③認印(はんこ)
最近では省略される場面も増えてきた認印ですが、場合によっては必要になることがあるため、念のため持参しておくと安心です。
たとえば、入居申し込みをして審査に通過し、その日のうちに「重要事項説明」を受ける場合などが挙げられます。
重要事項説明書は、賃貸借契約における重要な書類のひとつであり、通常は押印が求められます。
認印がなくても重要事項説明を受けることはできますが、不動産会社によっては認印の代わりに拇印を求められる場合があります。
拇印に抵抗を感じる方も少なくありませんので、できればあらかじめ認印を用意しておくことをおすすめします。

④個人情報(同居予定者の情報も含めて)
ご家族での引っ越しをお考えの場合、入居申込書には契約者の情報だけでなく、同居されるご家族全員の情報を記入する必要があります。新婚さんの場合は、婚約者さんの情報となりますね。
具体的には、氏名、生年月日、携帯電話番号、勤務先(学生の場合は学校名)、勤務先の所在地および電話番号などが求められます。
これらの情報をその場で確認しながら記入するのに時間がかかり、「部屋は決まったのに、申し込みの手続きでぐったり…」というお客様を、これまでに何度も見てきました。
たとえば、ご主人おひとりでご来店された場合、奥様の勤務先名や電話番号までは把握しておらず、その場で電話して確認されるケースもしばしばです。
ご家族で来店される場合はともかく、代表者のみで手続きを進める場合には、事前に必要な情報をすべて控えておくことがスムーズな手続きのポイントです。

【3】店舗で失敗しないためのマナーと注意点
①入社面接のつもりで内見を
「不動産屋さんは、お客様から頂く仲介手数料で成り立っているのだから、こちらが色々と要求するのは当然」とお考えの方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、その意識が店内での態度や振る舞いに表れてしまっている場合は要注意です。
私の担当したお客様で、こんな出来事がありました。
ある大手ハウスメーカー施工の新築アパートをご紹介したときのことです。お客様は新婚さんのようなカップルで、男性は見た目が少し派手で、正直に言うと最初はあまり印象の良いタイプではありませんでした。
入店して受付後すぐ、その新築アパートについて話を振ってこられました。まだ完成したばかりで、賃料はやや高めに設定されています。受付表にご記入いただいた希望条件をもとに、何度かやり取りをしながら条件のすり合わせをして、物件資料を印刷してお渡ししました。
そして、私が少し席を外したそのときのことです。男性が隣の女性に向かって放ったひと言を、私も上司も聞き逃しませんでした。
「だいじょうぶ。言えば下がるから」
店内にはBGMが流れ、他のお客様の声もありましたが、それでもはっきりと聞こえてきました。
不動産屋に強気で出れば値下げできると思ったのか、業界に詳しい風を装いたかったのか。それとも、事前に家賃を調べておらず、思ったより高かったので焦っていたのか……いずれかでしょう。
こちらとしては、そういった姿勢のお客様に新築物件へ入居していただくのは難しいと判断し、申し込みにならないよう、さりげなく流れを作ってお引き取りいただきました。
不動産屋さんは、物件をご紹介したお客様や、実際に内見にご案内したお客様について、大家さんに報告することが一般的です。
気に入った物件が見つかれば入居申し込みをすることになりますが、私の経験上、あまりにも横柄な態度のお客様は、前出の様に遠回しにお断りすることもありました。
「契約した後は、借主と大家の関係だから、不動産屋さんは関係ないのでは?」とお考えになるかもしれません。
しかし実際には、不動産屋さんはその後も大家さんからの入居者に関する相談窓口になることが少なくありません。
それが半年後か1年後か、あるいは契約更新時かは分かりませんが、入居者のトラブルや苦情対応に巻き込まれることもあり、営業担当としては大きな負担となります。
また、内見の予約をしている場合には、時間に遅れないようご注意ください。営業担当者は他のお客様との予定も抱えており、予約時間に遅れることで内見が短縮されたり、別日への変更が必要になることもあります。
時間を守ることも、良い印象を与える大切なマナーのひとつです。
ですので、物件探しの際は、「入社面接に来るつもり」で丁寧な対応を心がけていただくことが大切です。
それが、良い物件との出会いや、円滑な契約への第一歩となります。
②必ず靴下を着用して内見を
夏になると、裸足にサンダルという軽装で不動産屋さんに来られる方が増えますが、これは賃貸物件の内見においては完全に不適切な服装です。
アパート・マンション・貸家いずれも、退去から1か月も経っていれば、多くの場合で室内清掃が完了しています。そんな部屋に裸足で上がられると、大家さんにとっても不動産会社にとっても困る行為になります。
清掃は、内見者のためという側面もありますが、主に次に住む方が気持ちよく入居できるように行われているものです。つまり、物件を大切に扱う気持ちが求められます。
もちろん、不動産会社側ではスリッパを用意していますが、畳のある部屋ではスリッパを脱ぐこともありますし、スリッパの着用を嫌がる方も一部いらっしゃいます。

「じゃあ、清掃前なら裸足で良いのでは?」と思われるかもしれませんが、それも危険です。
私自身、退去直後の物件でフローリングから釘が突き出していたのを見たことがあります。
他にも、木片のささくれなどが落ちている可能性があり、裸足で上がるのはケガのもとです。
内見の際は必ず靴下を着用し、物件を丁寧に扱う姿勢を心がけましょう。それが、安全面とマナーの両方を守るための基本です。
③駐車から入店まで(店舗前に駐車場がある場合)
意外に思われるかもしれませんが、お客様がどのように駐車されるかは、営業担当者が非常によく観察しているポイントのひとつです。
というのも、駐車の仕方や入店時の振る舞いから、その方の人となりや、当日の接客がどのような展開になりそうか、ある程度見えてしまうからです。
たとえば、「今日は良いお部屋が見つかってスムーズに決まりそうか」「決まらず再来店になりそうか」といったことが、ほんの些細な行動から伝わってくることがあります。
私が勤務していた大手不動産会社では、毎月100名以上のお客様が来店されており、繁忙期にはその倍にもなりました。営業担当は3~4名体制で、1人あたり月に30組前後のお客様を担当します。
当然、自分が担当したお客様については結果まで把握していますし、他のスタッフが担当するお客様についても、入店から退店までの様子をデスクから観察していました。その積み重ねが、「肌感覚のデータベース」のようなものとして蓄積されていくのです。

また、車を降りてからの行動も、印象を左右するポイントのひとつです。たとえば、以前ご夫婦とお子様2人で来店されたご家族がいらっしゃいました。お子様だけが先に無言で店舗に入り、その後しばらくしてから親御さんが入店されたケースがありました。こうした場面では、その後の対応への構え方を判断する手がかりとなることもあります。
一方で、同じような家族構成でも、ご主人が先頭で入店されて「予約していた○○です」と名乗られるような方もいます。第一印象に与えるインパクトはまったく異なります。
歩き方、視線の送り方、表情、身だしなみ、そして受付カウンターでの最初の一言まで——こちらが観察しているというよりも、自然と目に入ってくるものです。それらすべてが、物件選びのやり取りや、その後のコミュニケーションに影響を及ぼすと感じています。

駐車の向きにも気を配りましょう
物件の内見や契約手続きなどで不動産会社を訪れる際には、駐車の向きにも配慮することをおすすめします。
というのも、月極駐車場や分譲マンションの来客用スペースでは、「バック駐車」がルールとなっているケースが少なくないためです。これは、敷地内の安全確保や見通しの良さ、防犯上の理由などが背景にあります。
「また、コンビニだって前向き駐車が大半じゃないか」とおっしゃるお気持ちも、よく分かります。
しかしコンビニは短時間の出入りを前提とした設計であり、利用目的も性質も異なります。
一方で、不動産会社のように一定時間の滞在が想定される施設では、駐車中の安全性や他の来店者への配慮も求められます。
たとえば、賃貸物件や分譲マンションの敷地内では、歩行者や小さなお子様の往来、他の入居者の車両の出入りなどに十分な配慮が必要です。
同様に、不動産会社の駐車場でも、他のお客様の車の出入りや歩行者との接触防止の観点から、バック駐車が望ましいとされることがあります。

また、車を前向きに駐車すると、ヘッドライトの光が店舗のガラス越しに差し込んでしまい、店内の他のお客様やスタッフにとって眩しく感じられることがあります。とくに日が落ちた時間帯には、配慮が求められます。
現地に「バック駐車をお願いします」との掲示がある場合や、案内担当者から指示があった場合には、指示に従うことがマナーです。
駐車の仕方で伝わる“印象”
私の実感として、前向き駐車で来店されたお客様には、やや自分本位な印象を受けることが多かったのも事実です。
以前こんな方がいらっしゃいました。

店舗前の駐車場に前向きで入り、白線をまたいで2台分のスペースを平然と占有して斜め駐車されたのです。
そのお客様は特に悪びれる様子もなく入店されましたが、私たちスタッフの間では「この方は少し注意した方がいいかもしれない」と自然と共有されることになりました。
実際、その方は予約時間にも遅れて来られ、内見時には案内中の説明をほとんど聞かず、契約後も設備に関する細かな要望やクレームが続きました。
もちろん、すべての方がそうというわけではありませんが、駐車の仕方ひとつで、その後の対応の難しさが予感されることもあるというのが、現場の率直な感覚です。
また、前向き駐車の場合は出庫時にスタッフが後方確認のために外へ出る必要があり、営業側のひと手間が発生するという実務的な問題もあります。
小さな配慮が第一印象を決める
不動産会社を訪れる際は、駐車時のマナーや時間厳守も含めて、丁寧な姿勢で臨むことが大切です。
とくに予約時間には余裕を持って到着し、もし遅れる場合には必ず事前に連絡を入れるようにしましょう。他のお客様の予定が詰まっていることも多いため、遅れることで内見時間が短くなったり、再予約が必要になることもあります。
こうした小さな気配りの積み重ねが、不動産会社や大家さんからの信頼にもつながり、良い物件との出会いのきっかけにもなるのです。

【まとめ】不動産屋さん訪問前に押さえておきたいポイント
・不動産屋さんは中立の立場
借主と貸主の間に立って契約をサポートする存在。過度な要求や横柄な態度は避けましょう。
・家賃交渉は慎重に
心証を悪くすると、入居後の対応に影響することも。適正家賃なら無理に交渉しないのが無難です。
・持ち物の準備は必須
顔写真付きの身分証・勤務先証明・認印・同居者情報など、必要書類を事前にそろえておきましょう。
・店舗では好印象を意識
内見時は「入社面接に来たつもり」で丁寧な対応を。靴下の着用や時間厳守も忘れずに。
・駐車マナーも大切な判断材料
バック駐車や安全な駐車を心がけましょう。入店時の振る舞いも、営業担当者はよく見ています。
・小さな配慮が信頼につながる
予約時間を守る、事前に連絡を入れるといった基本的なマナーの積み重ねが、良い物件との出会いを引き寄せます。